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この、十代半ばという年齢は、男性の女形に
ある種の不思議な魅力を与えるのかもしれない。
少しふくよかなタカオの体がよりいっそう
妖しさを付加した。
白地に富士の柄の着物で舞うタカオの姿は、
幻想的ですらある。切れ長の大きな瞳が
憂いを帯びる。柔らかな手の動き。
女形で芝居が終わるので、楽屋に来た
ムラーノ先生に、その姿を間近に見せることが
でき、それが何よりタカオには嬉しかった。
先生の週末の私服は、どちらかというと理系
特有のナードな雰囲気だったが、そんなものは
まったく気にならない。
「先生、どう?」
どうとも言えず、先生ははにかんでいた。
もう、クラスの生徒の誰が来たのか憶えて
いないぐらい、舞い上がっていた。
年が明けてから、4月にムラーノ先生が転勤
で隣県へ引っ越す予定であることを聞いた。
この時代、同性を好きになることに対して、
世間はそんなに悪い印象は持っていない。
タカオには、ただ純粋に、相手に対して気持ち
を伝えるという発想が、その時無かった。
ただ、楽しい時間が夢のように過ぎていったのだ。
それからムラーノ先生は何度か芝居を観に来てくれた。
楽屋でも、もう少し長く話していられるようになった。
そして、3月が来た。
別れの期限が迫っているとわかっていても、時間は
その速度を緩めることなく、残酷に過ぎていく。
最終日、
何をどううまくやったのか、卒業式を終えた帰り
ぎわの先生と、一緒になった。
自分は卒業して、芝居の世界へ入っていく。
先生は、転勤して遠くへ行く。
桜並木の河川敷で、先生は白いシャツに野暮ったい
カーディガンで、自転車を押している。タカオは
もちろん、男子中学生の姿だ。
寒の戻りで少し肌寒い。風で桜の花が揺れる。
「先生、桜がほら、寒い寒いって言ってるね」
そうだね、と先生はぼそっと呟くように言った。
最後に分かれ道で挨拶して、それっきり。
数年して、ムラーノ先生が隣の県で、結婚した話
を中学の同級生だった友達づてで聞いた。
タカオの初恋と、初めての失恋だった。
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