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ある日の算数の時間、僕は家に定規を忘れたことに気がついた。 仕方なく引き出しの奥に隠れていた竹製の物差しを出してきて、それを机の上に置いた。 すると藤枝の右手が伸びてきて、僕の机に鉛筆で何かを書き始めた。 『じょうぎわすれたの?』 横目で藤枝を見ながら小さい声で「別にいいだろ」と言うと、茶色い髪を小刻みに揺らして小さく笑っているのが見えた。 その日の授業は定規を忘れた僕を狙い撃ちしているかのように、いつもの授業よりも定規の出番が多かった。 ミニテストでは辺の長さが書かれていない三角形がいくつも出てきて、それぞれの辺の長さを測ってから面積を求めなくてはならなかった。 その度に僕の机の上を30cmの物差しが縦横無尽に走り回った。 ようやく面積を求め終え、僕は満足げに解答用紙を眺めていた。僕は算数が苦手ではなかった。定規を忘れたことなど、他のクラスメイトへのハンデのようなものだった。 ミニテストの終了間際、再び藤枝の手が伸びてきて、机の上に何かを書いた。 『22.4cm』 何のことか分からずに藤枝を見ると、藤枝は何事も無かったかのようにミニテストを続けていた。 ミニテストを見返してみたが、辺の長さを書いたメモの中にもそのような長さはなかった。 結局、授業が終わっても何が22.4cmなのかを聞くことが出来なかった。
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