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ロックアウト・ジェントルマン
運命は、靴を右足だけ履いている時にドアをノックする。
残りの左側へ爪先を滑り込ませ、なおざりに靴紐を結んでから扉を開けるまで2分。うち20秒は、ドアノブを回してから、鍵を掛けていた事に気付き開錠に手間取ったせいだ。
待っていたミランドが機嫌を損ねた様子はない。彼は友人の家を訪問したかの如く、するりと部屋の中へ身を滑り込ませる。クレイグもまた、深く考えることをせず彼を受け入れた。
ミランドはクレイグの想像しうる、アメリカ人の特徴を全て持ち合わせている男だった。膝や肘のところが光りそうな吊しのスーツ。あまり高い理髪店へ行っていないのだろう、白髪交じりの豊かな黒髪。少し出っ張った腹。年は50を越えた頃、自らより幾つか年上か、とクレイグは当たりをつけた。ふてぶてしい面構えの中、驚くほど澄んだ水色の目だけが、無邪気で好奇心旺盛な子供を思わせる。
「まだ準備中だったか。昨晩はよく眠れた?」
「ああ。すまない、もう出られる」
「いやいや、ごゆっくり」
そう口にしながら、ツインベッドの寝乱れていない方へ腰が下ろされる。腕の時計へ眼を走らせたのは、本当に時間を確認するだけの意図なのだろう。
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