ロックアウト・ジェントルマン

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 ガトウィック発、アムステルダム行きのブリティッシュ・エアウェイズが飛ぶのは今夜22時45分。何ならこのまま、部屋で読書して一日過ごすと宣言した方が、この男にとって余程都合が良いだろう。今からほぼ16時間の勤勉。決して開かぬようにと厳しく言い含められているので、カーテンは閉じたままだった。しかし緑色の重たげなリネンの裾から這い込む朝日は色を抜いたように白く、夜の名残から完全に決別しようとしている。外へ出ておいでと誘っている。  口ではすぐ発てると請け負ったものの、まだ髪に櫛も入れていなければ歯も磨いていない。一度履いたブラウン・バックスを脱ぎ捨て、毛足の短いダマスク模様の絨毯を靴下履きでぱたぱた歩く。家の中で靴を履くのは嫌いだった。許嫁はよく嫌悪で顔を歪め窘めたが、堅苦しい事を厭うのは性分だ。そんなに文句ばかり言うなら見なければいいと言えば、彼女は永遠に見る必要がない場所へ去ってしまった。最近の流行で言うところの「カルマが合わなかった」という話なのだろう。  ミランドは勿論文句を言わない。彼の視線が、自らの足元をずっと追っていると、クレイグは気付いていた。その蒼い目が、いかにも興味深げで、楽しそうにきらりと光ったことも。  雄弁な眼差しが本当の言葉になったのは、クレイグが洗面所へ引っ込み、たっぷり歯磨き粉をつけた歯ブラシを口に突っ込んだ頃のことだった。半分閉じかけたドアへ阻まれ、声はくぐもって届く。同じように、自らの返事も聞き取りにくいものだったに違いない。 「キャメルの背広に赤い靴下だなんて、この国じゃそういうのが流行ってるのか」 「さあ」     
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