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「いや、途中で食べよう。見舞いの後でも前でも……君がよければ」
「分かった。最初の目的地は病院だったか」
「ここから半時間も掛からないはずだ」
とは言っても、昨晩確認した限り訪れたのは1955年の12月が最後だから、記憶は曖昧だったーー本来なら、かさばる10年日記は置いてくるべきだったのだろう。だがあと数ヶ月で全て埋まるとなれば、どうしても未練が残った。結局投宿してから一週間分のページへは、普段よりも克明な記録が書き綴られている。
必要最低限のものだけ持ち出すよう指示を受けていたのに、荷物は多い。床の上で口を開けているトランクへは、整然と畳まれ、まとめられた品がこれ以上の隙間を見つけられないほど詰め込まれていた。
ミランドの目は不躾に、じろじろとトランクの中身を眺め回している。遮るかの如く勢いよく閉じても、その瞳に悪びれた様子は窺えなかった。彼の鈍いデリカシーは、捜査官としての特性から来るものだけではないのかもしれない。
「病院に行って……それから先の詳しい計画は聞いてないが」
「心配しなくても、逃げ出したりなどしない」
トランクの鍵を閉めながら、クレイグは緩く首を振った。
「逃げたところで……」
「いやいや、そんなことは思っちゃいないさ」
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