ロックアウト・ジェントルマン

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 トランクは奪われるかのような勢いで引き寄せられ、床から持ち上げられる。ミランドは笑みを浮かべた。彼は間違いなく、笑ったつもりなのだろう。未だ張りつめた緊張の糸を緩められないクレイグを、安心させるために。 「あんたを信頼してるよ。大学教授って言うのは真面目なんだろう」  糸のように細くなった眦、震える二重顎、歯を隠すような不自然な口元の歪み方。ミランドが浮かべる笑みは、恐ろしく不愉快な造形をしていた。なのに、思わず見入ってしまったのは何故だろう。  やがて目の前の顔から、笑いは潮のように引く。無表情の中、見つめ返す瞳が臆することはない。不躾とすら言えるクレイグの眼差しに、真っ向対峙する。  煙草をくわえ慣れるせいだろうか。どこか締まりの悪い唇が動き出す前に、クレイグは目を逸らした。まるで絡まり合っていた視線がその拍子にちぎれたかの如く、痛みを覚える。 「今日までだ」  上着の内ポケットに滑り込ませた鍵は、万年筆とぶつかって固い感触を得る。どうせ今日中は使うことがないだろう。だが昔から、鍵とは相性が悪かった。すぐになくすし、よく鍵穴で詰まらせ、歪めてしまう。 「明日からは違う……多分、そうだ」  役人が皆黒い車を乗り回していると考えるのは、どうやら偏見だったらしい。入口前に回されたボクスホールは、ペール・グリーンのいかにも庶民的なセダンだった。     
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