ロックアウト・ジェントルマン

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 まだ目覚めていない繁華街をまっすぐ突き抜け、車はテムズ川へと向かう。まるで10年は乗っているかのような、撫でるかの如く軽い手つきでハンドルを操りながら、ミランドの上目はちらちらとバックミラーへ向けられる。 「根比べか、上等じゃないか」  首を伸ばし、同じ場所を覗き込んむ。さっぱりなので、シートへ肘をかけるようにして後ろを振り返った。  間違いなく政府の車だと分かる、黒いジャガーが後ろへついたのはいつからのことだろう。このホースフェリー・ロードに立ち並ぶ省庁のどこかから現れたのかもしれない。身を捻ってとっくりと見つめれば、こちらと同じく男が二人。一人は今の季節には重い、濃灰色の背広を身につけ、ハンドルへしがみついている。助手席の一人は、服地が青っぽい事を覗けば運転席の男とそっくり同じ、むっつりした表情を浮かべた中年だった。路肩に立ち並ぶプラタナスは葉を落とす寸前で茶色く痩せ、淡い影を石畳へ落としている。その中を潜っては抜け、抜けては潜り、血色の窺えない顔は蝋人形じみて現実感を伴わない。 「あんまり見ない方がいい」  そう忠告したところで、クレイグが姿勢を戻さないだろう事を、この短期間で学んだらしい。ミランドは丘の一つでも歩いて越えたような溜息を漏らした。 「ありゃ恐らく保安局の奴らだ。わざわざの見守り、ご苦労なこった」 「僕には敵が多い」 「そうとも……」     
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