君の好きないろ

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「好きな色?」 「そう、君の好きな色、何色?」 彼女は一瞬怪訝そうに首を傾げる。手に持っていた絵筆をパレットの上にことん、と置いた。カーテンがふわりと揺れる。窓から風が吹き込む。彼女のスケッチブックがぱらりとめくれる。 「うーん、そうだなあ、青、かな。」すらりと伸びた人差し指で顎をなぞりながら彼女が言う。 「青?僕は、その、君はピンクとかが好きなんだと思っていたよ。」 「なぜ?」彼女がすうっと僕の目をのぞき込む。彼女はそうすることが多い。人見知りな7僕にとっては苦手な瞬間だ。 「身に着けているもの、ピンク色が多いじゃないか。」僕は彼女からふっと目をそらして答える。 彼女はふうんといいながら先ほど置いた絵筆を手に取る。そして僕の目を見てにこりと笑う。 「なぜ、突然そんなことを聞いたの?」 「僕は、こちらに来て日が浅いし。話してくれるのは君だけだし、その…。」 口ごもっていると彼女が僕の言葉をさえぎって言った。 「ああ、要するに私のことが知りたかったのね。」 ほてった顔を隠すように体をひねり、窓から校庭を見るふりをした。彼女は絵筆で色を創り続けている。しんと部屋が静まり返る。 「ねえ、いつまでそっち向いているの?」彼女がしびれを切らしたように僕に声をかける。 「君が、それを書き終わるまで。」僕はそっぽを向いたまま答えを返す。校庭ではサッカー少年たちが楽しそうにボールを蹴っている。 「それじゃ困るの。あなたがこっちを向いてくれなきゃ描き終わらない。」 「君が描いているのは風景画だろ?」 「そうよ、あと空のところを描いたら終わるわ。」椅子がぎいっと鳴る。僕が口を開くよりもはやく彼女が僕の両ほほを包んでいた。 そしてまっすぐに僕の目をのぞき込んで言った。 「私の好きな色は青。空のような透き通る青。君のいろよ。」 再び頬がほてるのを感じる。きっと彼女にわかるくらい顔が染まっていることだろう。そんな僕を見て、彼女は「あら、ピンクも悪くないわね。」と言って笑った。
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