20 悲しい予感

2/4
前へ
/91ページ
次へ
「……どうも。お邪魔しました」 ……さっきの人だ。 なんかすれ違うのも嫌な感じなので、優香は走りを止め、彼が行き過ぎてから店の前に行こうと思った。 男は優香には気が付かず商店街を横道に曲がった。優香はその背を何気なく見ていた。 男は待っていた車に乗りこむところだった。 その時、会話が聞えた。 「どうだった」 「ああ。ちょろいもんだよ」 そういって白い歯を見せた彼は、笑顔で助手席に乗り込み去って行った。 ……なんだろう、ちょろいって…… 気にはなったが、優香は澤村不動産前まで戻ってきた。今の話を富士子にしようかと思い、店内を覗いた。 ……明美さん?そうか…… 店の中では迅と明美が話し合っていた。 ここに入って行く勇気が無い優香は、何気なく店の前を通り過ぎ、家に帰ってから『帰宅』とメールした。 そんな優香は数日後の早朝。 栗林の源五郎の土地の周辺を走っていた時、例の男を発見した。 ……二人連れだ…… 男達は土地をぐるっと見ていた。 ……そうか。源五郎さんは土地を売りたいって言っていたので、そういう関係の人か。 しかし、今朝の男の恰好は、先日の身なりの良い恰好ではなく、ジャージ姿でずいぶん印象が違っていた。 違和感があったが、私服と優香は思い、気にせず走り抜けて行った。 その日の夕刻。 ランニングの時に澤村不動産の前を通った。 ウィンドウの中では源五郎が社長の厳と話し合っていた。 ……売買するのかな、源五郎さんは澤村不動産に頼むって言っていたし。 自分は関係無いので首を突っ込んではいけないと考えていた優香は、ランニングの前後のメッセージをして、この日も終った。 翌日。 会社で暇だったので、優香は同僚の石本さくらに、不動産とはなんぞやと聞いていた。 「まあ、その栗林の地主さんの場合だとね。まず今回は土地を売りたいわけでしょう?そこで、買ってくれる人を不動産屋に探してもらうわけ」 「ふんふん」 「そして買いたい人が現れて値段が合えば、売買成立でしょう?」 「そうですね」 「そうなったら不動産屋は仲介手数料がもらえるわけ」 「ふーん」 「取引する金額に応じて手数料も違うんだけど、その栗林は広い土地なの?マンションとか建つくらい?」 「今は林だから、実際は見た目よりも広いかもしれないですね」 「そんなに広いなら、大手ゼネコンとか、デベロッパーなの?」 「デベロッパー?」 生れて初めてそういう言葉を話した優香は舌を噛みそうになりながら言ったので、石本に笑われた。 「とにかく大きな会社って意味よ」 「なんか七菱地所とか、東京サービス事業部って言ってたし」 「大手じゃないの。いい所に買ってもらえて良かったわね」 「いい所、か……」 しかし、今朝の男のジャージ姿が優香にはどうも気になって仕方なかった。 このもやもやを晴らしたい優香は、会社帰りに澤村不動差に寄った。そこにはちょうど富士子が一人で留守番していた。 「先日の人なんですけど。朝も土地を見に来てましたよ」 「うん、このままだと契約するみたいだよ」 ここで優香は、一抹の不安を富士子に打ち明けた。 「大丈夫よ。ネットでもこの会社を確認したし。今はお父さんと迅がこの会社の事務所を訪ねに行ったの」 「それなら安心ですね」 「心配してくれたのね、ありがとう」 自分の気のせいで良かったと思った優香は、いつものランニングをし、一日を終えた。 そんな中、仕事中の石本は優香に合コンに行かないかと誘った。 「私ですか?ぜったい場を壊しますよ」 「いいのよ。人数が足りないんだもの」
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

240人が本棚に入れています
本棚に追加