20 悲しい予感

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今までの優香なら行かないが、今回は気分転換に行くことにした。 そして数日後の夜。 石本の大学時代の知り合いと言う事だったが、会は賑やかに楽しく会食が進んでいた。 「へえ?君は硬式野球部にいたんだ」 「そうです」 「俺も野球してたんだ。今は仕事で辞めちゃったけど」 「どこのポジション、いいえ?なんのお仕事なんですか」 「七菱地所。マンションを売らないと行けなくてさ。大変だよ」 「七菱地所……あのね、東京サービス事業部って知ってます?」 すると彼は思い出そうとして目を閉じた。 「聞いたこと無い部署だな……」 そして彼はスマホで調べてくれた。 「うん。確かに無いな……それって本当に七菱地所なの?」 「無い?……」 急に頭が真っ白になった優香は、一先ず店の外で迅に電話をした。 「……でない、どうしよう」 富士子もロッキーママもアキラも電話に出なかった。 いても立ってもいられない優香は、店を後にして急ぎ曙町に帰って行った。 澤村不動産のシャッターは閉じていたので、優香は裏口から声を掛けた。 「富士子さん!富士子さん」 「なによ、どうしたの」 風呂から上がって、化粧をしていない富士子は、汗だくの優香にびっくりした。 「はあ、はあ、あの七菱地所は?はあ、はあ」 「源五郎さんの土地かい?今日契約したよ」 「そんな会社は無いって、はあ、はあ」 「なんだって?」 富士子の話では、今現在、厳と迅は彼らと契約を祝して食事をしていると話した。 「七菱地所の人が、そんな部署が無いって」 「待って!もう一度確認するから」 富士子は勇気を出して、遅い時間だったが、ネットに書いてあった七菱地所に電話をしてみた。 「つながった!あのですね。お宅の七菱地所東京サービス事業部の人がね。うちの店で無銭飲食したんですけど」 そんな問い合わせに、しばらくすると、やはりそんな部署は無いと返事をされた。 「……わかりました。どうも」 「富士子さん。どうします」 「……書類を取り戻さなくちゃ」 「今はどこにいるんですか?早く行って、厳さんと迅さんに話さないと!」 「待って、その席に相手もいるんだよ」 そして富士子は意を決して上着を羽織り、男達のいるスナック曙に向うというので、優香も一緒にやってきた。 「優香ちゃん。どう、まだいる?」 「はい。あの男です」 店の外から覗いた二人は、酒を飲んで良い気になっている男達を見ていた。 「よし。行ってくる」 「お気を付けて」 店に入った富士子は、ママに一礼してから男達の席に座った。 「びっくりした?母さん。どうしたんだよ」 「すみません~。私、今日の契約のハンコを間違えたかもしれないんですよ」 「契約書のですか?」 品の良いスーツの男の顔から、急に笑顔が消えた。 「そうなんです~。バカですよね?実印を新しくしたので、もしかして古い方を押しちゃったかもしれないんです」 「……」 「本当に申し訳ないです!お戻し願えませんか?明日必ず間違いなく押しますので」 「本当に間違いなんですか」 「はい。高額の取引ですので、緊張しちゃって。あの、書類はどこですか」 こんな調子で富士子は男のカバンから封筒を出させて、受け取った。 「そしてせっかく預かった手付金も、一旦お返しします。ごめんなさいね」 「……わかりました」 この様子を厳と迅は不思議そうに見ていたが、男の顔から笑顔は消えていた。 「ホホホ。では私は先に失礼します」
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