21 映るんです

1/4
前へ
/91ページ
次へ

21 映るんです

「すいませんでした。こっちのミスで」 「いやいいんだ。騙される前で良かったよ」 平日午前中の澤村不動産の店内。 地主の源五郎はそう言って、澤村厳の頭を上げさせた。 「しかし、どうして気が付いたんだ?」 「優香ちゃんが七菱地所の人に聞いてくれたんですよ」 「そうか。また助けられたんだな」 「……」 迅も頷き説明をした。 「俺達が見に行った事務所は、看板だけがでているインチキで。ネットのホームページにあった事業者番号も別の会社の物でした」 「ずいぶん手が混んでいる詐欺だな」 「はい。実は同じ手口で、知り合いの不動産がやられました」 ヤツらの手口は、大手の会社の子会社を装って信用させ契約をするもので、契約時に百万円程度の前金を出し、契約書類をゲットし他の支払いは手形で行うものだった。 「まあ。良しとしようか。今後は気を付けて買主を探しくれよ」 「はい」 「ご足労すみませんでした……」 そして源五郎が帰った店で、澤村父子は大きく溜息を付いた。 「しかし、マジでヤバかったな」 「ああ。大きな仕事が、大きなヘマになるところだった」 そこへ富士子が二人にお茶を持って来た。 「本当に助かったわよね。あの時、優香ちゃんは、こっちが電話にでないからさ。駅から走って来てくれたのよ」 「これは一つ、礼でもしないとな、なあ。迅」 「ああ?……俺、出かけてくるわ」 「そう……」 そう言って出かけた最近元気のない息子に両親は溜息を付いた。 「ああは言ったが、あいつ」 「無理させちゃったわね……」 そんな心配されていた迅は明美の店にやってきた。この足しげく明美の店に行く迅を曙町商店街のメンバーもちゃっかり見ていたのだった。 その数日後、商店街の定例会議という名の飲み会の時に、商店街会長が相談が有ると声を張った。 「まずは。これ!曙マラソンだ」 「うわ?俺達も出るんですか」 「ああ。地元がでないでどうするんだ」 曙町を走るマラソンは、この町では初の試みだと会長は話した。 「色んな町で行われているもので。今回は曙が選ばれたんだ」 「うちの町は治安が良いからな?アハハハ」 上機嫌のアキラを他所に、会長は選手を発表した。 「カメラの大谷。パン屋の木村。そして女子は我らの優香ちゃん」 おおおお!男性は拍手をした。 「そして。小学生のサッカー小僧と、あとはクリーニングの明美だ」 この話に一同は迅を見つめた。 「なんですか?やめてくださいよ」 「そこ。うるさいぞ!他に出る奴がいないからこれで行くぞ」 そして議題は次になった。 「前から設置を頼んで置いた防犯カメラを、市の方で付けてくれるようになったんだ」 「ここまで長かったな?……」 「でもいいじゃないか。付けば」 商店街の店主達は嬉しそうにビールを飲んでいた。 「しかしだな。どこに付けるかが問題なんだよ」 会長はそういって椅子に座ったので、アキラが質問した。 「何が問題なんだよ?」 会長の話では、個人情報の事が気になると話した。 「例えばだな。アキラの店に出入りする人間が映るとするよな」 「おお。いいじゃねえか」 「お前さんが女と浮気しているのも映るんだぞ」 「してねぇよ!」
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

240人が本棚に入れています
本棚に追加