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21 映るんです
「すいませんでした。こっちのミスで」
「いやいいんだ。騙される前で良かったよ」
平日午前中の澤村不動産の店内。
地主の源五郎はそう言って、澤村厳の頭を上げさせた。
「しかし、どうして気が付いたんだ?」
「優香ちゃんが七菱地所の人に聞いてくれたんですよ」
「そうか。また助けられたんだな」
「……」
迅も頷き説明をした。
「俺達が見に行った事務所は、看板だけがでているインチキで。ネットのホームページにあった事業者番号も別の会社の物でした」
「ずいぶん手が混んでいる詐欺だな」
「はい。実は同じ手口で、知り合いの不動産がやられました」
ヤツらの手口は、大手の会社の子会社を装って信用させ契約をするもので、契約時に百万円程度の前金を出し、契約書類をゲットし他の支払いは手形で行うものだった。
「まあ。良しとしようか。今後は気を付けて買主を探しくれよ」
「はい」
「ご足労すみませんでした……」
そして源五郎が帰った店で、澤村父子は大きく溜息を付いた。
「しかし、マジでヤバかったな」
「ああ。大きな仕事が、大きなヘマになるところだった」
そこへ富士子が二人にお茶を持って来た。
「本当に助かったわよね。あの時、優香ちゃんは、こっちが電話にでないからさ。駅から走って来てくれたのよ」
「これは一つ、礼でもしないとな、なあ。迅」
「ああ?……俺、出かけてくるわ」
「そう……」
そう言って出かけた最近元気のない息子に両親は溜息を付いた。
「ああは言ったが、あいつ」
「無理させちゃったわね……」
そんな心配されていた迅は明美の店にやってきた。この足しげく明美の店に行く迅を曙町商店街のメンバーもちゃっかり見ていたのだった。
その数日後、商店街の定例会議という名の飲み会の時に、商店街会長が相談が有ると声を張った。
「まずは。これ!曙マラソンだ」
「うわ?俺達も出るんですか」
「ああ。地元がでないでどうするんだ」
曙町を走るマラソンは、この町では初の試みだと会長は話した。
「色んな町で行われているもので。今回は曙が選ばれたんだ」
「うちの町は治安が良いからな?アハハハ」
上機嫌のアキラを他所に、会長は選手を発表した。
「カメラの大谷。パン屋の木村。そして女子は我らの優香ちゃん」
おおおお!男性は拍手をした。
「そして。小学生のサッカー小僧と、あとはクリーニングの明美だ」
この話に一同は迅を見つめた。
「なんですか?やめてくださいよ」
「そこ。うるさいぞ!他に出る奴がいないからこれで行くぞ」
そして議題は次になった。
「前から設置を頼んで置いた防犯カメラを、市の方で付けてくれるようになったんだ」
「ここまで長かったな?……」
「でもいいじゃないか。付けば」
商店街の店主達は嬉しそうにビールを飲んでいた。
「しかしだな。どこに付けるかが問題なんだよ」
会長はそういって椅子に座ったので、アキラが質問した。
「何が問題なんだよ?」
会長の話では、個人情報の事が気になると話した。
「例えばだな。アキラの店に出入りする人間が映るとするよな」
「おお。いいじゃねえか」
「お前さんが女と浮気しているのも映るんだぞ」
「してねぇよ!」
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