21 映るんです

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ここで迅は飲んでいたビールのジョッキを置い、そういう問題では無いと話した。 「曙マンションの住人は監視されていると気にするかもしれないんですよ」 すると古田が口を開いた。 「だからさ。カメラでどこを映すかって事だろう」 「そうなんだよな……」 それに商店街の人が誰でも見ることができるようにした方が良いと言う事になった。 「あれでだよ。大谷がいいんじゃないかよ」 「そうだな。カメラ屋さんだし」 するとカメラの大谷も了解した。 「うちの方で管理するのはいいですけど。角度はどうするんですか?」 結局、試験運転として商店街の端から歩行者を映すのが一台と、不法投棄が多発しているゴミ捨て場が見える角度に一台設置になった。 こうして開始したカメラの映像を、防犯係りの迅は早速、カメラの大谷の店に見に来た。 「これが夕べの録画した奴かな」 「……走ってるな」 そこには爆走している女の子が映っていた。 「ああ。俺もなんとなく見ているけど。朝と夕刻、走ってるよ」 「結構速いんだな」 「ああ」 よく考えたら迅は店に立ち寄る優香しか知らないので、彼女がこんなに全速力で疾走しているとは思ってなかった。 「こっちはゴミ捨てか、あ、こっちも映ってるのか」 「ああ。コースなんだろう。ここも走ってるよ」 映像の中の優香は、乱れたゴミ捨て場の黄色いネットを丁寧に畳んで片付けていた。 「偉いな」 「ああ。ゴミも拾ってるし。道案内や落とし物も交番に届けているよ」 「……大谷さん。ずいぶん見てますね?」 「?だって面白いし?ハハハ」 しかし彼の背後では奥方はおホン!と咳払いしていた。 「とにかく。そう言うわけだよ」 気になったらいつでも見に来てくれと言われた迅は、不動産屋に戻る前に明美の店に顔をだした。 「なあ。明美」 「お。どうしたの」 真顔の迅は、クリーニング店の受付で、さっき見た映像の話をした。 「そうか、やっぱり……」 話を聞いた明美の顔色はさっと変わった。 「……戸締りとか。気を付けろよ」 「うん。わかってる!それにね、向うはしばらく日本を離れるみたいなの」 「じゃ、俺達もそれまででいいんだよな?」 「そうよ。ごめんね?変な事頼んじゃって」 「……いや、仕方ないさ。それよりも身の回りに気を付けろよ」 「うん。迅もね」 そんな話しをして彼は、重い足取りで夏の暑さが残る曙の町を店まで歩いて帰って行った。 その夜。彼は『出発』のメッセージを受け取った。 ……来るかな。来た! 今夜の彼女もお下げ髪で自分の元に走ってきた。 「よ!止れ~ストップ」 「はあ、はあ、はあ」 「あのな。頼みがあるんだ。走り終わったら店に寄ってくれ」 「わ、わかりました」 自分を見上げる素直な目に、迅は胸が熱くなったが、この想いを殺してなんとか言葉を発した。 「よし。行け」 「はい!」 そんな彼女は自分の脇をすり抜け走って行ってしまった。 彼はその場で彼女の残り香を追う様に、小さな背を見ていた。 そして戻ってきた彼女を店内に招いた彼は、麦茶を飲ませた。 「どうだ。最近の走りは」 「絶好調です」 迅はこんな風におしゃべりするのが久しぶりだったが、話しをすると一気に距離が縮まった気がし、笑顔になった。
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