0人が本棚に入れています
本棚に追加
高校2年の夏休みも、もう終わろうとしていた。
僕は特に勉強が出来るわけでもなく、スポーツが得意なわけでも無い。
そして、人に自慢できる程の趣味も無い。
まあ、何処にでもいる普通の高校生なのだ。
ただ唯一あるとすれば、ギターを弾く事。
中3の頃からフォークシンガーに憧れて、教則本を見ながら練習した。
人に聞かせる程上手くは無いけれど、好きな歌ばかりを何度も何度も繰り返して覚えたものだ。
学校のクラブにも属してない僕は、家に帰ってからひたすらギターを弾いては歌っていた。
「あんたいい加減、ご近所迷惑よ」などと母親は言うが、息子の唯一の趣味を取り上げる気は無いようだ。
そして夕方、僕が部屋でいつもの様にギターを弾いていると「公彦!そろそろペスの散歩の時間よ!」と母親が下から大声を上げた。
もうそんな時間か。
「分かってる!今から行くよ」
ペスはうちの飼い犬である。
夏休みの間は、僕が朝晩の散歩の担当だ。
「待たせたなペス、さあ行こうか」とリードを引いて玄関を出た。
すると隣の家の前に、大きなトラックが停まっていた。
家具やら段ボールを、配達員が運んでいる。
どうやら引越しの様だ。
最初のコメントを投稿しよう!