1 出会い

2/4
前へ
/12ページ
次へ
高校2年の夏休みも、もう終わろうとしていた。 僕は特に勉強が出来るわけでもなく、スポーツが得意なわけでも無い。 そして、人に自慢できる程の趣味も無い。 まあ、何処にでもいる普通の高校生なのだ。 ただ唯一あるとすれば、ギターを弾く事。 中3の頃からフォークシンガーに憧れて、教則本を見ながら練習した。 人に聞かせる程上手くは無いけれど、好きな歌ばかりを何度も何度も繰り返して覚えたものだ。 学校のクラブにも属してない僕は、家に帰ってからひたすらギターを弾いては歌っていた。 「あんたいい加減、ご近所迷惑よ」などと母親は言うが、息子の唯一の趣味を取り上げる気は無いようだ。 そして夕方、僕が部屋でいつもの様にギターを弾いていると「公彦!そろそろペスの散歩の時間よ!」と母親が下から大声を上げた。 もうそんな時間か。 「分かってる!今から行くよ」 ペスはうちの飼い犬である。 夏休みの間は、僕が朝晩の散歩の担当だ。 「待たせたなペス、さあ行こうか」とリードを引いて玄関を出た。 すると隣の家の前に、大きなトラックが停まっていた。 家具やら段ボールを、配達員が運んでいる。 どうやら引越しの様だ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加