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「いちっちぃ……。やっぱ、一律5000円は安すぎません?悪い依頼が重なったとはいえ、8月後半の移動費のかさみ具合やばいですよ」
大きな溜め息をつき、詩織はぐったりとデスクに顎を乗せた。
エアコンの効いた事務所は涼しく、このまま寝て現実逃避したい衝動に駆られる。
「それでも月はプラスだろ?」
詩織に背を向けている応接用のソファーの陰から、やる気のない声が返ってきた。
「プラスったって、7万ですよ?7万!バイト代はこの際置いておくにしても、生活が成り立ちませんって!」
詩織が言うと、男がソファーの陰から出てきた。むくりと起き上がった彼の髪はボサボサで、寝ていた事が容易に想像できる。
左目にしてある眼帯を指で押し上げ、ずれていた位置を調整する。
御柳一知はボリボリ頭を掻くと、大きな欠伸をして言った。
「まぁ落ち着け。くみ、コーヒー飲むか?」
「ぬぬぬ……飲みます」
その言葉を聞き、イチはのそりと立ち上がった。
本来であればバイトに頼むような内容だが、自分で出来ることをイチは要求してこない。
もしも今の状況で頼まれたら、ふざけんなと断っていたところだ。
お茶汲みだろうがなんだろうが、女性社員は主婦ではない。
主婦ではないが……イチが自分の旦那だったら、非常に協力的で、助け合えるだろうなと、詩織はなんとなく思っていた。
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