274人が本棚に入れています
本棚に追加
「すみません。御柳が失礼なことを……どうぞ」
後でちゃんと注意しよう。そう思いながら詩織は、2人にコーヒーを出した。
冷蔵庫に作りおきしてある、イチが作った詩織自慢のコーヒーだ。事務所を訪れた際には、是非いただいてほしい。
「ありがとうございます」
どうやら、イチが言った言葉をまだ引きずっているようだ。三谷は詩織に頭を下げるも、その顔は少し不機嫌そうに見えた。
それに気付かないイチは、詩織を紹介する。
「彼女は、助手のくみ……与谷詩織です」
紹介する際、思わずいつも呼んでいるあだ名で呼ぶところだった。突然詩織に睨まれたイチは、焦りながら軌道を修正する。
「与谷詩織……」
咀嚼するように繰り返し、三谷は詩織の顔を見る。
首を傾げる詩織に、三谷は頬を赤らめた。
「とても可愛らしい方ですね。コーヒーいただきます」
三谷は照れながら、太ももを掻いていた。
照れ隠しに、コーヒーを一口。その味は、美味だった。
「あ、おいしい。今まで飲んだ中で、一番おいしいかもしれません」
「ありがとうございます!当店自慢のコーヒーなんですよ!」
「カフェか」
イチが突っ込むと、三谷は小さく笑った。思わず出てしまった言葉を、イチは軽い咳払いで吹き飛ばす。
どこか締まらない空気の中、イチは真面目な顔付きになり、言った。
「では三谷さん。ご依頼の内容を」
その言葉が出た瞬間、詩織は急いでデスクのノートパソコンを開いた。依頼の内容をメモする為だ。
開いた瞬間、イチと目が合ったので、詩織は小さく頷いた。
「お話し願います」
カランと、溶け出した氷が音を立てた。
最初のコメントを投稿しよう!