~100~

6/32
前へ
/379ページ
次へ
「すみません。御柳が失礼なことを……どうぞ」 後でちゃんと注意しよう。そう思いながら詩織は、2人にコーヒーを出した。 冷蔵庫に作りおきしてある、イチが作った詩織自慢のコーヒーだ。事務所を訪れた際には、是非いただいてほしい。 「ありがとうございます」 どうやら、イチが言った言葉をまだ引きずっているようだ。三谷は詩織に頭を下げるも、その顔は少し不機嫌そうに見えた。 それに気付かないイチは、詩織を紹介する。 「彼女は、助手のくみ……与谷詩織です」 紹介する際、思わずいつも呼んでいるあだ名で呼ぶところだった。突然詩織に睨まれたイチは、焦りながら軌道を修正する。 「与谷詩織……」 咀嚼するように繰り返し、三谷は詩織の顔を見る。 首を傾げる詩織に、三谷は頬を赤らめた。 「とても可愛らしい方ですね。コーヒーいただきます」 三谷は照れながら、太ももを掻いていた。 照れ隠しに、コーヒーを一口。その味は、美味だった。 「あ、おいしい。今まで飲んだ中で、一番おいしいかもしれません」 「ありがとうございます!当店自慢のコーヒーなんですよ!」 「カフェか」 イチが突っ込むと、三谷は小さく笑った。思わず出てしまった言葉を、イチは軽い咳払いで吹き飛ばす。 どこか締まらない空気の中、イチは真面目な顔付きになり、言った。 「では三谷さん。ご依頼の内容を」 その言葉が出た瞬間、詩織は急いでデスクのノートパソコンを開いた。依頼の内容をメモする為だ。 開いた瞬間、イチと目が合ったので、詩織は小さく頷いた。 「お話し願います」 カランと、溶け出した氷が音を立てた。
/379ページ

最初のコメントを投稿しよう!

274人が本棚に入れています
本棚に追加