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「こりゃひでぇな……」
武田慶治は、その光景に眉を潜めた。
蓄えた無精髭を弄りながら、深い溜め息をつく。
住宅街が見下ろす場所には、大きな石がゴロゴロと転がっているような、とても綺麗な川が流れている。
足元の草は川縁に近付くに連れ、まるで立ち入りを拒むように、徐々にその背を伸ばしている。
川に架かる橋の下には、上流と下流を区切るようにロープが張り巡らされていた。
【KEEP OUT】の文字が、日常と非日常を仕切っている。その区間内に彼はいた。
「慶治さん、被害者の身元が分かりました」
慶治の元に、スーツ姿の青年が駆け寄ってきた。
「ごくろうだったな、渡辺」
慶治が言うと、渡辺と呼ばれた青年は手帳を開き、その内容を伝える。
「被害者の名前は、織谷仁美(おりたに・ひとみ)。17歳。三原総合高校の、2年生です」
「今度は女子高生か……」
渡辺の報告に、慶治は深い溜め息をついた。
武田慶治は、今年で45歳になる。自転車を漕ぐことが趣味のベテラン刑事だ。
思ったらすぐ行動。それが彼の癖であり、その行動力故にいくつもの事件を解決に導いてきた。
だが残念なことに、仕事一筋の彼にパートナーはいない。絶賛独身中である。
敢えて言うなら、仕事が恋人といったところか。それも恋人が出来ない理由のひとつだが、彼の見かけが裏社会を感じさせる風貌というのも、少なからず原因に含まれるだろう。
慶治は渡辺から視線を外し、言った。
「で、今回もやっぱり……」
視線を向けた先は、たった今、体に青いシートを被せられた女性……にしては、シートの膨らみがやけに小さい。広げたシートに、点々と膨らみがある。
慶治の台詞に続き、渡辺が言った。
「はい。全てバラバラです」
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