プロローグ

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田中昌弘は焦っていた。夏の夕暮れ時、必死に社用車の中を漁る。 ない、ない。現場での仕事を終え、いざ帰ろうと車に乗り込んだ時、いつもの所に車の鍵が、無い。 鍵を抜き、ドリンクホルダーの中に入れておいたのだ。 内装業を始めて20年。現場に着く度毎回行っていたことを、自分が行わないなんてありえない。 現場の中には持ち込んでいない。車の中は隅々まで探した。いつも持ってきている弁当袋の中にも無い。 ーー盗まれた、という発想になるまで、時間は掛からなかった。
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