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「おはようございまーす」
詩織の元気な声が響いた朝の8時半。
本日の大学の講義は午後から始まり、また伝えたいこともあった為、詩織はイチの事務所に顔を出した。
事務所に入った詩織は、のんびりと着替えているイチと遭遇した。
「きゃー!」
と叫ぶイチ。
「その反応をするのは私ですよね?しませんけど。出掛けるんですか?」
パンツ姿のイチに対して、特に反応することはない。朝の見慣れた風景だ。
イチはつまらなそうにズボンを履き、ベルトを通した。珍しいスーツ姿をしげしげと眺める詩織に、イチは言う。
「ああ。くみが昨日帰った後、急に依頼が入ってな。内容は探し物だから、すぐに帰ってこれると思う」
そうですかと詩織は言う。昨日調べた事件は、今話すべきか。
「いちっち、お昼までには帰ってきますか?」
話すことにした。イチは時計を見てすぐに答える。
「帰ってくると思う」
「そうですか。実は昨日、小学生の男の子の遺体が発見されたみたいで。その子の小学校の先生に、色々話を聞きに行きたいなって思ってるんですよ」
「警察とかマスコミで忙しいんじゃないのか?」
イチの言葉に、詩織は胸を張って答える。
「実は、朝一で予約しておきました。全力を持って捜査してると伝えたら、喜んで会ってくれるそうです」
「予約制なの?」
居酒屋みたいなシステムだなとイチは思った。そもそも、学校側が警察やマスコミ以外に情報を提供してくれるなど聞いたこともない。
詩織はイチの表情を読み取ったのか、付け足すように言った。
「11時20分から、授業中の数十分だけ。学校を見学しにきた、一般の保護者……という体にしてくれるみたいです」
「それはありがたいな。なら、さっさと済ませてくるか」
急ぐイチを安心させるように、詩織は言う。
「いちっちが来なければ、私一人で話を聞いてくるので。焦って事故に遭うとか、やめてくださいよ?」
イチは苦笑を浮かべた。確かに運転に慣れていないが故、急ぐと事故に遭う可能性もある。
だが、今回の依頼は紛失物探し。少々ややこしい所にあるので依頼人と一緒に探すことになったのだが、何もなければ1時間もかからずに帰ってこれるだろう。
イチは、了解と敬礼をした。いってらっしゃいと詩織に見送られ、玄関を出た。
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