プロローグ

7/9
前へ
/379ページ
次へ
「彼女は助手の、与谷詩織(くみたにしおり)です」 「よろしくお願いします」 紹介された彼女は、深々と頭を下げた。 「近所の、矢野源次郎(やのげんじろう)です」 老人が流れに便乗して言うと、「気にしないでください」と青年は言い捨てた。 しょんぼりする老人を横目に、昌弘も自己紹介をする。 「田中昌弘と申します。矢野さんの紹介で伺ったのですが、実は鍵を……」 盗まれたと言おうとしたが、老人が言った言葉を思い出す。 ーー無くした鍵を見つけたいとでも言えばよい。 「……無くした車の鍵を、見つけてほしくて」 昌弘が言うと、青年は「なるほど」と頷いた。 「かしこまりました。少々お待ちください」 青年はそれだけ言うと、左目にしてある眼帯を外した。 彼の両目と目が合って、彼が口を開くまでーーものの数秒であった。
/379ページ

最初のコメントを投稿しよう!

274人が本棚に入れています
本棚に追加