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「彼女は助手の、与谷詩織です」
「よろしくお願いします」
紹介された彼女は、深々と頭を下げた。
「近所の、矢野源次郎です」
老人が流れに便乗して言うと、「気にしないでください」と青年は言い捨てた。
しょんぼりする老人を横目に、昌弘も自己紹介をする。
「田中昌弘と申します。矢野さんの紹介で伺ったのですが、実は鍵を……」
盗まれたと言おうとしたが、老人が言った言葉を思い出す。
ーー無くした鍵を見つけたいとでも言えばよい。
「……無くした車の鍵を、見つけてほしくて」
昌弘が言うと、青年は「なるほど」と頷いた。
「かしこまりました。少々お待ちください」
青年はそれだけ言うと、左目にしてある眼帯を外した。
彼の両目と目が合って、彼が口を開くまでーーものの数秒であった。
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