274人が本棚に入れています
本棚に追加
「分かりました」
「え!?」
いそいそと眼帯を戻す青年は、少し苦笑いをしていた。
「お弁当袋の中を調べてみてください」
青年はそれだけ言った。昌弘は現在、手元に弁当袋は持っていない。
「良かったのぉ。盗まれてなくて」
「いやいや、え?探しましたよ?」
中には確かに無かった。そもそも弁当袋の存在は、一言も口にしていない。
ニヤニヤと肘でつついてくる老人に抵抗しないほど、頭が混乱している。
確かに無かったーーはず。
「論より証拠ですね。行きましょう」
青年は黒いサンダルを履くと、先導するよう外に出た。3人はそれに続いて外に出る。
数秒で到着した現場は、来る前と何も変わっていない。
しかし、車に積んである弁当袋を前にした昌弘の心境は、とても複雑だった。
あればいいとは思うが、盗まれたと騒いだ手前、出てこなければいいとも思う。
これで出てきたら相当恥ずかしいなと、心の中で自嘲する。
弁当袋に手を伸ばす。こんなに緊張したのは、娘の結婚式以来だ。
果たして、弁当袋の中に手を突っ込んだ昌弘が触れたのはーー触り慣れた、金属の感触。
「あったようじゃの」
恥ずかしさで顔が赤くなるのが分かる。無意識に入れてしまったのだろう。
入れるはずがないという先入観が働き、袋の中を軽くしか探さなかったのか。
「ありました……」
引き抜く手が、とても重く感じた。
鍵に付けている、生意気そうなリスの台詞付きのキーホルダーが顔を見せる。
『まじっすか』と書かれた台詞は、まさしく彼の心を代弁していた。
最初のコメントを投稿しよう!