~100~

2/32
309人が本棚に入れています
本棚に追加
/354ページ
9月である。猛威を振るった暑さが陰を潜め、世間で秋と呼ばれる季節になったのは、数十年も昔の話だ。 地球温暖化が進んだ現代では、秋と呼ぶのはもう少し先になるだろう。 だが、まだ夏であると感じるのは人間だけで、鳴りを潜め始めた蝉達も、遠くで色を変える山々も、秋の訪れを予感している。 ーーこのまま行けば、冬が来る。 それは事務所のデスクで、8月の収支表を見ていた与谷詩織も感じていた。 詩織は、パソコンの画面を見て考える。夏の半ばは良かった。夏休みシーズン、海や施設での忘れ物が目立ち、その捜索依頼が毎日のように来ていた。 だが夏の終わりが近付くに連れ、収入は落ち込み始めた。8月頭の収支から視線を落とすと、まるで山々が紅葉するように数字は赤みを帯びてきている。 真っ赤な数字とは逆に、青い顔をした詩織は思う。 ーーこのまま行けば、冬が来る。 御柳探偵事務所は、暇だった。
/354ページ

最初のコメントを投稿しよう!