ブロローグ

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ブロローグ

 夜、白石さんの夢を見た。  白石さんと手をつなぎ、中学の修学旅行で行った北海道の大地を歩いていた。  どこまでも続く白い荒野が太陽に輝き、澄んだ空に囲まれている。  ほかに誰もいない。  ぼくたちふたりだけの世界。   一時間でも終わらない。  半日経っても終わらない。  夕日が沈みかけても終わらない。  空の砂時計が夜を告げても終わらない。  ふたりで歩くのが楽しかった。  永遠にこうしていたかった。  でも考えてみたら・・・  中学でも高校でも、ふたりで歩いたことなんてなかった。  長い時間、一緒にいたこともなかった。  だから・・・  ぼくらの短い時間が・・・  ひとつひとつ・・・  ぼくの心に記録されている。  ハードディスクだって壊れる。  DVDだって壊れる。  USBカードだって壊れる。  でも心のレコーダーは・・・  ぼくがこの世に別れを告げるまで・・・  永遠に消えることなんてない・・・  彼女から送られたメールがひとつひとつ頭に甦る。  ぼくの心の中にメールの保存箱がある。  携帯が壊れようと・・・  携帯の店で顔を青くして相談しなくても・・・  ぼくのメールの保存箱って永遠なんだ。  あの年、七月。  入院先の病院から、ぼくに送られてきたメール・・・    <日下部君。  いま、日下部君とわたしの十七年振り返って、ノートに書いてる。  今度、日下部君だけに見せるからね。>  そのノートは、いま、永遠にぼくの手の中にある。  白石さんの書いたノートを読みながら・・・  一年前、ふたりで過ごした毎日を・・・  振り返るんだ・・・  
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