だれとも話せなかったこと(白石七海)

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 こんな子に、だれもわざわざ話しかけたりしない。  一番、いやだったこと。  みんなの前でセリフをしゃべる稽古。  笑い。  バカにした目。  ひそひそ話。  先生の声!だんだん大きくなっていく。  顏が熱い。体が熱い。  緊張して言葉が出ない。  早く時間が過ぎてほしい。  ある日。稽古が終わった後。  母と一緒に、児童劇団の講師に呼ばれた。  わたしと母はソファに座り、講師と向かい合った。  むずかしい顔でいろいろと言われた。  時々、意味もなく笑う。  わたしをバカにしてるんだ。  「ムリですよ・・・」  「人と交流することができない・・・」  「ずっと入院して限られた世界しか知らなかったから・・・」  「ここは病院ではないし・・・ぼくも医者ではない」  講師の先生の言葉が、わたしの心の中をグルグル回っている。  早く時間が過ぎて欲しい。  布団に入っていたい。  でも講師の先生の話は長く続く。  冷たい目がすっとわたしを見てた。  父の運転する車で帰る。  後部座席に座ってるのがイヤだった。  わたしの前で両親が、声を小さくして不機嫌そうに話してる。  「だってわたし。児童劇団に入ったおかげで、人とコミュニケーションとれるようになったのよ」  「七海には、ぜんぜん役に立ってないよ」     
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