『抱きしめられたらそれだけで』

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『抱きしめられたらそれだけで』

暑い!と思い目を覚ましたけれど、身動きが取れなかった。 後ろから抱え込まれ、腹は苦しいし首も痛い。両足も挟まれ自由になるのは両腕だけだった。 山口の抱き癖は付き合う前からなのだからそろそろ慣れてもいいのかもしれないけれど、ここまでガッチリ抱き込まれてしまうとつらいものがある。 とりあえず、離してもらえないだろうか…と腰に回っている手をたたけば今度は手を握られてしまった。 「山口、離せ。」 必死に言えば「ふふふ。」と笑う息が頭にかかった。 「シマちゃん。おはよー。」 やっと自由になった。と思った瞬間、おでこに唇が触れた。 「シマちゃん、今日も可愛い。」 「可愛くない!」 逃げるようにベッドから降り、トイレへと向かう。 山口は一日に何度も何度も、可愛いと言う。二人っきりになれば触れて来るし抱きしめられる。 男の俺を可愛いと言うのはおかしいと思うけれど、一応付き合っているのだから嬉しくないわけじゃないのが困る。 カッコワルイよりカッコイイほうが良いに決まっているのだから、可愛くないより可愛いほうがいいんじゃないかと思う。 けど、それは山口限定なのだと思うと少しどころかかなり嬉しい。 トイレから戻るとベッドの上で胡坐をかいて携帯をいじっていた山口は、携帯を投げ捨てるように置くと俺に向かって両手を伸ばした。それに誘われるように、山口の上にのり座ると腰に両腕がまわりぎゅっと抱きしめてくれた。 そして「シマちゃん可愛い。大好き。」といつもの言葉をくれる。 俺は答えるように山口の首に両腕をまわしてぎゅっと抱き着いた。 結局のところ、俺は何でだろう?と思いつつも、「可愛い。大好き。」と言って抱きしめてくれる山口が大好きなのだと思う。 抱きしめられて感じる山口の体温に幸せだなぁと目を閉じた。
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