惨劇

1/3
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

惨劇

 私が最愛の双子の兄――蒼衣の死を知ったのは、彼が部屋を出ていってから一時間後のことだった。喧嘩別れした部屋ほど寂しい空間はない。冷たい氷の刃を彼に差し向けておいて……。まさかその刃を自分の胸に突き立てるとは思いもしなかった。  軽快なメロディーを響かせながら、私の携帯電話にかかってきた未登録の番号。自室の布団の上で目を伏せていた私は、今しがた突き放した蒼衣のことを考えていた。  のろりと起き上がって携帯電話を探す。最低最悪のタイミング。出ることに一瞬迷ったが、公衆電話からかけた蒼衣かもしれないと思い出た。でも、知らない男の人の声だった。……何を言われたのか分からなかった。救急隊員の言葉が理解できず、ただ自分の内側からあらゆる大切なものが零れ落ちていくような……。  搬送先の病院にどうやって辿り着いたのか覚えていない。病室に連れて行かれると思っていた私は、地下二階の表示を見ていた。薄暗い無音の空間。医者と警察の人に案内されて、冷たい扉の前に立つ。     
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!