覚悟

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覚悟

 葬式も終わり、火葬場に集まった人々。いよいよ本当の別れが来る。もう、あの優しかった顔も声も炎の中に消えてしまう。外は相変わらず冷たい雨。何もかも流して欲しいと思っていた……。  私は手紙を見つけてから、私はどうすべきなのかずっと考えていた。繋がりを断ち切ったのは他でもない自分。でも愛しいたった一人の兄であることに変わりはない。手紙の最後の言葉……『願わくば来世でも双子でいられるように』か。  最愛の人の最後の顔を見て、泣きじゃくる母親の姿に私は思った。生きよう――精一杯。片翼になってしまったけれど、私まで死んだら、記憶の中の貴方さえ殺してしまうことになる。人は死んだら、誰かの記憶の中でしか生きられないのだから。  棺が運ばれ、綺麗な花が描かれた重厚な扉が閉められる。すすり泣く声がそこかしこから聞こえてくる中、私は彼がなくなってから一滴も涙を流していないことに気がついた。悲しいはずなのに、辛いはずなのに。 「それでは、最後の別れです。」  式場の人の言葉に、周囲の泣き声が少し大きくなる。――違う。これは別れじゃない。だって双子の私達はいつも一緒だから。例えお互いの気持ちが分からなくなっても、側にいることができなくなっても、私達は二人で一つだから……。私が生きている限り、貴方も私の中で生き続ける。そう、これは新たな世界の始まりなのだ。  瞼を閉じて祈れば、すぐに浮かび上がる蒼衣の笑顔。私の中で時間を止めて、いつまでも一緒に……。  この四年間のことは忘れない。後悔してもしきれない。それならばいっそ、私は別れの日を無かったことにするよ。あの日は私の中で永遠に封じておくからね。貴方のためなら記憶でも時間でも捨ててやる。全てを捧げても足りないなら、私の命を奪いに来て!  冷たい雨が降りしきる中、私はそっと目を閉じて(あお)ぐ。この雨が上がれば、新しい日が来る。すっかり緩くなってしまった喪服の襟を正し、深く息を吸い込んだ。  貴方が私の中にいる限り、ずっと私達は双子。まだ終わってなんかない。この先きっと誰のことも好きになれないだろう。自ら断ち切った紐を今更手繰り寄せて繋ぎ止めようとしている私。  双子で良かった。心も身体も繋がれて良かった。ねぇ蒼衣、私、新たな世界への扉をこの雨の中に見たの――。
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