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「小秋」
「……汁石くん?」
「白石だ!」
店先のベンチから漫才師のごとく鋭いツッコミを入れてきたのは、白石くんこと白石和生だった。
ボクと白石くんは幼なじみだ。お母さん同士が短大時代からの親友で今の縁に至る。まあしかし、幼なじみといっても同じ学校に通ったことはない。今でこそ一緒の町内に住んでいるけれど、小学校、中学校と彼は、親御さんの都合で隣町に住んでいたのだ。
ちなみに白石くんは、真夏ちゃんと小学校からの同級生で、さらに言うと真夏ちゃんの元カレだったりする。中学二年生の夏に二週間だけつき合い、キスはおろか手さえ握ることのないまま破局してしまったらしいのだけれど。
好き過ぎて何もできなかったんだ、と中性的色白イケメン、白石くんは言う。自分から告白したというのになんて情けない奴なんだ、俺は、と。
近辺の工業高校の夏服を着崩した白石くんは、缶コーヒーを一口だけ飲んだあと、再び口を開いた。
「どうしたんだよ、こんな時間に」
「考えごとしてたら、なんだか甘いものが食べたくなっちゃってね」
「考えごと、ねえ」
もしかして、真夏のことか? 二拍、三拍と置き、低く掠れた声で尋ねてくる白石くん。
ボクは、まあね、と短く答える。
実は彼、ボクが真夏ちゃんに抱いている感情を知っている。
ボクと真夏ちゃん、そして白石くんの三人で去年の十二月、隣県までサッカーの代表戦を観に行ったのだけれど――真夏ちゃんと白石くんは破局後、友人関係に戻っている――その帰り道。白石くんと二人きりになったところで、サッカー観戦の余韻のままボクは、思わず真夏ちゃんへの恋心を口走ってしまったのだ。
しまった、と思った。いくら気心の知れた幼なじみとはいえ、事情が事情である。けれどボクの思いとは裏腹に、白石くんは至って真剣だった。茶化すことなく、ボクの話を大真面目に聞いてくれた。
「とりあえず、買い物済ませてこいよ。話の続きはそれからだ」
「うん、わかった」
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