(3)

2/6
前へ
/40ページ
次へ
 クラス委員による号令、そして続く、その他大勢の「さようならー」の声と共に、教室中が弾けたように、どっと騒がしくなった。  藤沢先生が加齢臭を置き土産に教室を去ったあと、一番後ろの自席から何気なく真夏ちゃんのほうを見た。視線の先の彼女は、教壇の真ん前の席で派手グループの生徒たちに囲まれながら、にこにこと愛嬌を振りまいているところだった。  真夏ちゃんは、どんなくだらない話にもつき合ってくれる優しいコだ。今だって二年D組四天王の一人、スターリンこと星野凛のどうでもいいような話に、あはは、といちいちかわいらしい声で笑ってあげている。  似合わない巻き髪に、似合わないギャルメイク。いつも大口を開け、年上バンドマンとの性事情を明け透けに語る、あんな頭空っぽのバカ女の話なんて無視してやればいいのに。  スターリンらに捕まってしまった真夏ちゃんとは、今日は一緒に帰れそうにもない。終業式だっていうのに、本当にツイてない。落胆しつつ、縫製バッグを右肩にかけ、軋む椅子からゆっくりと立ち上がる。  今日の夜にでも真夏ちゃんのケータイに連絡してみよう。明日会える? 遊べる? ってダメ元で聞いてみるんだ。可愛いスタンプを添えて、ない女子力を振り絞って、聞いてみるんだ。 「あ、小秋ちゃん!」  そのときだった。 「ちょっと待って!」  四天王のもとから突然、真夏ちゃんが小走りでこちらに歩み寄って来たではないか。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

161人が本棚に入れています
本棚に追加