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「黙ってたわけじゃないんだよ? でもほら、あえて伝えるようなことでもないかなあと思って」  言葉が出てこなかった。真夏ちゃんに悪気がないということは百も承知している。でもやっぱり悲しいし、何より寂しかった。そんな大事なこと、真っ先に伝えてほしかった。  陸橋を渡りながら、ボクはあれこれと考えを巡らせる。  確かに、真夏ちゃんにとってはたったの一ヶ月なのかもしれない。けれど、ボクにはその一ヶ月が途方もなく長く、まるで今生の別れのように感じられた。  今日中に、彼女に気持ちを伝えなければ後悔する――ボクが衝動的にそんなことを思ったのは、陸橋を渡り切ったときのことだった。  冷静さを欠いている自分自身を、ボクは十二分に自覚していた。でも、その一方で昂り続ける感情は、いよいよ歯止めが効かないところまできていた。 「真夏ちゃん」 「ん?」 「今からちょっとだけボクにつき合ってくれないかな?」 「……うん。明日の準備がまだ残ってるから、あんまり遅くまでは無理だけど」 「大丈夫、本当にちょっとつき合ってくれるだけでいいから」  ただならぬ決意を胸に、ボクは真夏ちゃんだけに黒目を縫いつける。  真夏ちゃんはきょとんとした表情を浮かべながら、小首を傾げている。  七月二十四日、火曜日。蝉のトレモロが脳天に響く、ひどく暑い午後のことだった。
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