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***  人生初の告白場所は、海と決めていた。  遠い水平線を眺めながらのベタなシチュエーションに、昔からなぜか憧れがあったのだ。そして幸運なことに、ボクの住むA市には海がある。 「海なんて久々に来たなー」  S駅のホームに降り立つや否や、真夏ちゃんが声を弾ませた。  ここは、母校のあるA駅から私鉄でニ十分の距離に佇む無人駅。一日の乗車人数はグーグル調べによると平均で五十人程度らしい。地元でも非常にマイナーな駅であるため、実はボク自身ここに来るのは初めてだったりする。  簡素な屋根と青いベンチが二つだけという、至ってシンプルな造りのホームから眺める景色は、控え目に言って絶景だった。 「小秋ちゃん、誘ってくれてありがとね」 「ううん、こちらこそ」  あのね、真夏ちゃんと一緒に夏の思い出が作りたいの。そう言って彼女をここに誘い出したのが、ほんの数十分前の出来事。  真夏ちゃんは明日、早朝の便でイギリスのレスターという街へと旅立ってしまう。そして、帰国は一ヶ月先。そんな事実を彼女の口から聞かされて間もなく、ボクは告白を決意した。なんとしてでも気持ちを伝えなければならない、と衝動的に思ったのだ。  明日からのことを考えると、とてもつらい。一ヶ月会えないだけでこんなにも寂しく、切ない気持ちになるなんて、ボクは知らなかった。
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