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「わたし、日焼け止め塗ってくるの忘れちゃったよ」 「あ、じゃあボクの貸してあげる」 「わー、ありがとう」  ボクたちはホームのベンチに並んで腰かけている。真夏ちゃんとの距離はわずか二、三十センチ。心の距離はもっと近い――と信じたい。  何気なくスマートフォンを確認すると、時刻はまだ十三時にもなっていなかった。もっとも、悠長に構えている暇はない。二人きりでいられる時間は限られている。  一時間。きっと長くても一時間程度だ。真夏ちゃんの都合を考えると、それくらいが妥当だろう。けれど、つい数十分前までの勢いはどこへやら、ボクは完全に委縮し切っていた。人生初の愛の告白を前に、端的に言うとビビッていたのだ。  ボクたちはもともと、それほどおしゃべりな方ではない。二人きりのとき、自然と沈黙が生まれてしまうことも珍しくはなかった。もちろん、お互いに気を許しているわけで、そこに気まずさのようなものは一切ないのだけれど、 「…………」  会話らしい会話もないまま、気づけば五分、十分、二十分と、時はいたずらに経過してしまった。  さすがに、これはちょっと気まずい。そして何より、真夏ちゃんに申し訳ないと思った。彼女は忙しい中、ボクにわざわざつき合ってくれているのだ。
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