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「お待たせ」
ベンチに戻るや否や、ボクは真夏ちゃんにコーラを差し出した。
「ありがとう」
と例の目のなくなる笑みを浮かべた彼女は、手のひらに六十円を用意していて、ボクはその律儀さをあらためていじらしく思い、危うく悶えかけた。
すんでのところで持ち堪えたボクは、
「ボクのおごりだから、お金はいらないよ」
だなんて精一杯のクールを気取り、真夏ちゃんの隣に腰かける。
「いいの?」
「もちろん。真夏ちゃんにはいつもお世話になってるから」
「あはは。全然そんなことないけど、でも嬉しいな」
直後、真夏ちゃんがコーラを一口飲み、そして次にボクが一口。なんだかいつもより甘みが強く感じられる。気のせいなんかじゃない。真夏ちゃんのセクシャルなリップにはきっと、甘いものをよりいっそう甘くしてしまう特殊能力が備わっているのだ。
そんなことを至って真剣に考えながら、ボクは真夏ちゃんの横顔を、口元を、じっと食い入るように見つめている。不意に、触れてみたい、と思った。この薄い唇を、彼女の厚く艶やかな唇に目一杯押しつけてみたい。そう思った。
真夏ちゃんの唇は、いったいどんな味がするのだろう――。
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