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「羨ましいと思った俺は、間違っているかな?」
真っ黒の瞳が、悲しそうに私を映す。
だから慌てて視線を逸らした。
「羨ましいって、伊槻もその子を狙っていたとか?」
「は?」
無理矢理な笑みだった。
揶揄うように言った私の声は、石のように硬かった。
「じゃあ、失恋だね」
逃げるように立ち上がり、ベッドに向かう。
「花純」
「あ、私なんか疲れてきちゃったから寝るね」
一瞬だけ、その顔に笑いかけて、長い天蓋のレースのカーテンを捲る。
「花純、逃げるなよ」
近づいてくる気配に、私はレースのカーテンを締めた。
隠れられるわけないのに。まるでバリアでも張るみたいに、薄く柔らかな布を握りしめた。
「伊槻も、そろそろ帰らないと」
「花純」
その手が、レース越しに私の手を握る。
ベッドの上に膝をついた伊槻の息が、微かに震えて聞こえる。
「花純は、俺の妹じゃない」
その言葉を聞くのは、もう何度目だろう。
「妹だよ」
そして私がこの言葉を吐くのも、何度目だろう。
「それは、親が勝手に決めたことだろ?」
「親が決めたから、私は今ここに居られるの」
「だけど、俺たちは」
「兄妹だよ?」
雪村平蔵が私を養女として迎えた日から、私は伊槻の妹になった。
優しい伊槻は、身体の弱い私をいつも心配してくれた。
私が東京の学校に通えるように、父親に頼んでくれたこともある。
それから私が大好きな雪の日には、金平糖を持って現れる。
ずっとずっと、私が寂しくないように、伊槻はそばに居てくれた。
東京と長野で離れていても、何度も会いに来てくれた。
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