金平糖が溶けた

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だけどその全てが、許されないことを、私は知っている。 「それに、伊槻は彼女が居るでしょう?」 「は?」 「知ってるよ?可愛い婚約者が居るにも関わらず、美人なお姉さんとデートしているんでしょう?まったく、モテる男はこれだから」 わざとらしく溜息を吐いた私に、伊槻が顔を顰める。 「誰から聞いたんだって顔してる。知りたい?」 「・・・」 返事のない伊槻が、握っていた手を強めたから、私は綺麗に笑って見せた。 「菖蒲(アヤメ)ちゃんだよ」 「菖蒲?」 「そう。伊槻の可愛い婚約者の菖蒲ちゃんが、伊槻が浮気ばかりして困っているって、電話をしてきたの」 それは夏休みが明けてすぐの頃だった。 伊槻が教育実習に来ていた、大学生のお姉さんと良い雰囲気になっていると、泣きそうな声で電話をしてきた。「花純さんから、なんとか言って下さい」と。 「なんで菖蒲が、花純のことを」 自分の知らないところで、私と婚約者が連絡を取っていたことに驚いたのか、伊槻は目を丸くして私を見る。 「お義母様が、一度連れてきたのよ」 「母さんが?」 「そう。伊槻の婚約者だから、あなたにも紹介しておきたいって」 片手で数えられるほどしかこの場所に来たことのない養母が、わざわざ訪れた理由。 説明されなくても理解は出来た。 「その時連絡先を交換して、時々菖蒲ちゃんから連絡が来るの。すごく良い子だよ?私のことお姉ちゃんみたいって言ってくれて。可愛くて性格も良くて、家柄もしっかりしていて育ちも良い。頭が良いのも話していてわかるし、お料理も得意なんだって」 「だから?」 そんなに怒った顔、しないでよ。 「きっと、素敵な奥さんになると思う」 「俺には関係ない」 「関係あるよ。あの子は、伊槻のこと本当に想っているんだから。伊槻ももっと大切にしてあげないと。婚約者でしょう?」 「花純は、何もわかってない」
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