金平糖が溶けた

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その瞳が、私を睨むように見た。 「わかってないのは、伊槻だよ」 何をしたって、どう足掻いたって、無理なことがある。 そのことを、伊槻はわかっていない。 ううん。わかっているくせに、こうして私に会いにくる。 雪村家は、普通の一般家庭とは違う。 その家で生まれたからには、進むべき道があり、そこに連れ添う相手だって、誰でもいいわけではない。 お金持ちだから、好き勝手自由に生きられるわけではない。 その家に生まれたからには、果たさなければならない責任がある。 守らなければならない、歴史や名誉がある。 その家柄に、見合う人間になる必要がある。 伊槻は、そういう宿命を背負う、選ばれた人間だ。 ただ温情でここに置いてもらっている私とは、次元が違う。 「ここは、伊槻が来る場所じゃない』 だから、その手を離して。 「俺は、花純を妹と思ったことは一度もない」 「それは、寂しいな」 「花純」 「ねえ、もう本当に帰りなよ。また雪降って来たら、帰れなくなるよ?」 「いいよ、別に。ここに残る口実が出来るなら、それでいい」 その言葉に緩んだ手が、閉じられたカーテンに隙間を作る。 そこから伸びてきた手が、私の頬に触れた。 「花純」 会う度に、大人に近づくその声を、私はあと何回聴けるだろう。 「なんで、素直にならないんだよ」 だって、素直になっても私たちには、何も残らないでしょう? 「花純が、本当の気持ちを言ってくれたら、俺はこの家を捨ててもいい」 ねえ、伊槻。 伊槻は何も知らないの。
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