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東京で、家族や友達と一緒に、当たり前の高校生活を送る伊槻は、この真っ白な雪に囲まれて生きる私のことを、何も知らないの。
「ダメだよ、伊槻」
「花純?」
「伊槻がこの家を捨てたら、私たちはこうやって会うことすら許されなくなるんだから」
現実は、甘くない。
金平糖のように、甘くはない。
「知ってる?私たちは、兄妹だから、一緒に居られるんだよ」
「だったら、」
悲しそうな瞳が、私だけを映す。
グラリと天蓋が揺れたのは、一瞬だけ縋るように、柔らかなレースを掴んだからだ。
だけど次の瞬間に私は、水中に沈むようにシーツの波に溺れた。
「だったら、俺が今夜ここに泊まっても、誰も文句は言わない」
「伊槻、」
「だって俺たちは、兄妹だから」
そう言った伊槻が、今にも泣き出しそうで、私はその髪に指を差し込んだ。
一秒ごとに近づく距離に、気づかなかったわけではない。
気づかないフリを、しただけだ。
「花純、好きだ」
その声に、その想いに、触れた唇に。
気づかないフリをして、私たちは互いの身体を引き寄せた。
「いつ、き」
それはもう、何度目かの行為。許されない感情。
だから誰にも気づかれないように、シンシンと降る雪の音に隠れて、私たちは一つに溶け合う。
これは、ハッピーエンドなんかじゃない。
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