金平糖が溶けた

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雪村花純(ユキムラ カスミ) 花のように愛らしく、凛とした女性になるようにと、両親が付けてくれた名前。 だけど私は、両親のことをあまり知らない。 写真では見たことがある。今も部屋に飾られているから。 でも、私の記憶の中には、父も母も見当たらない。 「花純さま、お食事の支度が出来ました」 扉をノックする音と同時に、聞きなれた声が響く。 「もう少し待って」 あまりの寒さに、ベッドの中から返事をすると、扉が開けられた。 「もう充分待ちましたよ?さあ、起きてください。温かい紅茶を淹れましたから」 廊下から入り込むヒンヤリとした空気と一緒に、世話係の百恵さんが現れる。 「今日はいつもに増して寒いんだもん」 肩を竦めて言った私に、百恵さんが「当たり前です」と答える。 「今日は、雪ですよ」 百恵さんがカーテンを開けると、朝の眩しい光が部屋中に差し込んだ。 「雪!?」 「あ、もう!花純さま!」 さっきまで片時も離れられないと思っていた毛布から飛び出した私は、スリッパを履き、窓の前に駆け寄る。 「わあ」 少し曇った窓ガラスの向こうに広がる銀世界に、私は声を上げた。 「ほらほら、寒いですから上着を羽織って下さい」 「どうしよう!雪だ!」 「冬ですからね」 興奮する私の肩に、百恵さんがカーディガンを掛ける。 「私、お庭に行ってくる!」 「ええ!?」 「食事はそれからにするわ」 「お庭って、ダメです。こんなに冷えた日に」 「大丈夫よ。これくらい平気」 「ですが万が一風邪でも引かれたら。ああ、そうです、せめてお着替えを」 「そんな時間勿体ない!雪が溶けたらどうするの?」 慌てる百恵さんを置いて廊下に出ると、私は飛び跳ねるように階段へと走る。 こういう時、広い家は不便だ。
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