金平糖が溶けた

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「花純さま、お待ちください!」 「ねえ、長靴は?すぐに出せる?」 「長靴はありますけれど、そんなお姿では困ります」 「どうして?」 「誰が見ているかわかりませんし、」 「こんな山奥に誰も居ないわよ」 「ですが、今日は困ります!」 必死に止める百恵さんの言葉を無視して、一階へと向かう。 毎日毎日、こんな所に閉じ込められているのだから、雪の日くらい楽しみたい。 あのふわふわでシャキシャキな雪の上を早く歩きたくて、私は玄関ホールに飛び込んだ。 「きゃっ」 広いホールに足を踏み入れた瞬間、目の前が遮られた。 勢いよくぶつかった柔らかな感触に、私は慌てて顔を上げる。 「随分と元気そうだな」 仕立ての良いコートの胸元を辿っていくと、不機嫌そうな顔を見つけた。 「あああああ、伊槻お坊ちゃま!」 百恵さんが、頭を抱える声がする。 だから漸く、必死で私を止めていた理由を理解した。 「なんだ、伊槻(イツキ)か」 「なんだとは、なんだ」 「なんだはなんだよ。それよりも、どいてくれる?私急いでいるの」 不機嫌そうな顔が、さらに不機嫌になる。 「その恰好だと、風邪をひく」 「大袈裟よ」 「着替える時間くらいあるだろう」 「すぐに戻ってくるから」 「ダメだ」 「そんなこと、伊槻には関係ないでしょう?」 どうにも邪魔をしたいらしい男の横をすり抜けようとすると、腕を掴まれた。 「花純」 「もう、離してよー」 「せめて、これを着ろ」 「え?」 伊槻が着ていたコートを脱いで、私の身体を包んだ。 良いコートは、保温性も良いらしい。 その温もりに、つい頬が緩む。
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