金平糖が溶けた

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「花純さま、長靴ですよー!」 聞こえた声に、伊槻と二人で振り返ると、百恵さんが私の長靴を抱えて走ってきた。 「百恵さん、転んじゃうよ?」 「大丈夫ですよ。花純さまほどドジではありません」 「えーひどいなー」 頬を膨らますと、百恵さんがクスクス笑いながら、雪の上に長靴を置いてくれた。 「お二人分の朝食をご用意しておりますから、あまり長居はなさらないでくださいね」 百恵さんの言葉に、私よりも先に伊槻が返事をする。 それからゆっくりと、長靴が履ける位置まで降ろしてくれた。 「うーん!今年もふかふか!」 すっぽりすっぽり足を取られながら歩く私の右手を、伊槻がしっかりと握る。 伊槻に借りたコートは丈が長くて、気を付けないと雪に濡れてしまいそうだ。 「よく毎年飽きないな」 「うん。だって楽しいもん」 子供の頃から足が小さい私は、どうしても長靴のサイズが合わなくて、いつもブカブカで歩いている。そのせいでよく躓くから、伊槻はいつもこうして手を握ってくれる。 ずっとずっと一緒に居る。 父と母の事は覚えていないのに、伊槻のことはずっと前から知っている。 こうして何度も雪の上を歩いて、それから二人で・・・ 「金平糖!!」 「ん?」 「どうしよう、金平糖買ってきてもらうの忘れてた!」 雪の上で金平糖を食べることが、小さい頃からの楽しみなのに。 「買ってきた」 「へ?」 「来る途中で、そんな気がして買ってきたから」 そう言った伊槻が、私が着せたコートのポケットを見た。 だから急いで手を入れると、中に小さな巾着袋が入っていた。 「金平糖」 「お土産」 私の手から袋を取った伊槻が、紐を解いて口を開ける。 それから中身を覗くと、「手、出して」と言った。 差し出した両手に、キラキラの金平糖が降ってきた。
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