金平糖が溶けた

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「キレイ」 「落とすなよ」 「うん」 私は嬉しくて、色とりどりの金平糖を見つめる。 どれから食べよう。両手を見つめて考えていると、長い指が伸びてきて、白い金平糖を摘まんだ。 「くち、」 伊槻の言葉に、僅かに口を開けると、ヒンヤリとした指先が唇に触れる。 それから甘い砂糖の固まりが、口の中で溶けた。 一瞬で身体中が甘くなる。奥歯でカリッと噛むと、もう姿を消してしまう。 「美味しい」 その幸せな感覚に、私は次の一粒に指を伸ばす。 落とさないようにと思ったのに、金平糖が二つ、雪の上に零れた。 「下手くそ」 呆れたような伊槻の言葉に、私はまた嬉しくなった。 ずっとずっと変わらない。 この瞬間だけはずっと、変わらない。 身寄りのない私を、雪村家が引き取ってくれたのは、まだ小学生の頃だった。 父と母と私。三人で出掛けた家族旅行の帰りに、父と母は死んでしまった。 トンネル内で起きた交通事故が原因だ。生き残ったのは当時7歳だった私一人。 もともと駆け落ち同然で結婚した両親は、親戚付き合いもほとんどしておらず、葬式の場で、誰が私を引き取るか揉めた。 そんな親族を見かねて、私を養女として引き取ると言い出したのが、雪村平蔵。伊槻の父だった。 有名な資産家である雪村は、父と母の大学時代の友人の一人だった。 大学時代、マドンナと呼ばれるほど美人だった母に、当時の雪村は好意を抱いており、私の父とは、母を取り合った仲なのだと得意気に語ってくれた。 恋のライバルとしては敗れたものの、雪村にとって私の母は永遠の憧れであり、父はそんな母を射止めた、自慢の親友だった。 その二人を同時に失ったことに、酷く心を痛めた雪村は、身寄りのない私を引き取ることをすぐに決めたそうだ。
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