愛したものを詰め込んで

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愛したものを詰め込んで

夏が終わって行く。彼女の自由が奪われて、2度目の夏だった。病院の白いベッドに横たわり、窓の外を見つめる彼女もまた白い。 「和くん、そこの引き出し開けてみてよ。そう、1番上のやつ」 「どうしたの?」 彼女はベッドの上で上体を起こし、「いいから、いいから」と私を催促した。何の装飾もないシンプルな備え付けの引き出しを、私は慎重に引いた。 「ね? 素敵でしょう?」 と、彼女は微笑む。 「泣かないでよ。ようやく完成したんだから、もっと喜んでほしいなぁ」 そんなことを言われても、私は涙を堪えることが出来なかった。 引き出しの中には、私達の"夏"があった。私達が出会い、愛し、約束したあの向日葵畑が広がっている。 「約束、ちゃんと果たせたでしょう」 私はただただ頷いて、彼女の絵を見つめた。 ――あなたの本の絵を私が描く。約束ね。 彼女はあの向日葵畑での約束を覚えていたのだ。 繊細でみずみずしくしく彩られた向日葵達は、彼女が好きなラムネ色の空の下に咲いていた。 彼女は今まで、たくさんの絵を描きその度に私を幸せにしてきた。だけど、こんなにも胸が苦しくなる絵は初めてだった。
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