幽霊優先道路

　駅から五分ほど歩いた、やや見通しの悪い道路。
　街灯も駅前に比べると急激に数が少なくなり、ここから先はいきなり暗い道になる。
　いつも通る道だが、ふと、見慣れない標識に気付いた。
　青に白いビックリマーク。
　私は首を傾げた。
　こんな標識あっただろうか。
　黄色にビックリマークなら知っているが。
　先ほど激しい雨に降られた。
　スーツはびしょびしょに濡れ、雫が滴っている。　
　私は空を見上げた。
　もう星が出ている。
　最近らしい天気だと思った。
　後方から黒い車体のタクシーが来た。細い道なので、スピードをやや落とし気味にしている。
　私は右手を上げた。
　仕事で終電を逃した日は、駅の近くのコンビニで弁当を買い、この辺りでタクシーを拾うのが常だった。
　雨が降ったので捕まらないかと思ったが、ラッキーだった。
　随分と間を置いて、タクシーのドアが開いた。
　何か不都合でもあるのかなと思った。
　私は後部席入り口でやや屈み、いいですか、と運転手に声をかけた。
　運転手は、こちらを振り向きもせず、無言で頷いた。
　暗い道の暗い車内。
　離れた所にポツンとある街灯と、車の前方のライトだけでは、運転手の表情は見えなかった。
　感じの悪い人なのかなと思ったが、こちらはびしょ濡れのスーツを着ている。
　気付かれて乗車拒否される前に、さっさと乗ってしまえと思った。
　濡れたスーツに気付かれないよう、そそくさと運転手の真後ろに座った。
　シートを濡らしてしまったのを悪いとは思ったが、拭けば大丈夫だろうと勝手に考えた。
「温町の一丁目まで」
　自宅のある地名を言った。
　運転手は無言で頷くと、車を発進させた。
　タクシーは、ガクン、ガクン、とぎこちない発進の仕方で、暗い道を走り出した。