幽霊優先道路

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「凄い雨でしたね、さっき」  私は運転手に話しかけた。  運転手は、暫く無言だった。 「降ったんですか」  かなり間を置いて、そう言った。  ぼそぼそと、喉元から絞り出すような声だ。  話すのが苦手な人なんだろうか。 「降りましたよ。ザーッと。もうびしょ……」  そう言いかけて、私は口を噤んだ。  シートを濡らしてしまったのがばれたらまずい。 「かなり降りましたよ」  私は改めてそう言った。 「車の中にいると、意外と分からないものなんですか?」  私は言った。  そうですね、と運転手はボソボソとした声で言った。 「そうだ、あの、青にビックリマークの標識、あれ何ですか?」  私はこれを機会に聞いてみようと思った。プロの運転手なら当然知っているはず。 「標識……」  運転手は、ぽそりと言い、また暫く黙り込んだ。  やりにくいな、と私は思った。この人、いつもこんな感じなんだろうか。 「幽霊優先道路ですか」  運転手は言った。 「は?」  私はポカンとした。 「そんな標識あるんですか?」 「最近施行されて」  運転手は言った。 「へえ……」  私は頷いた。  免許を持っているとはいえ、ペーパーだから知らなかった。 「厳密には、標識は「幽霊」とは言ってないですけどね。ほら黄色にビックリマークの標識ってあるでしょ」  運転手はボソボソと小声で言った。 「ああー、「何かが出るから注意」ってやつですね。その「何か」が幽霊だとかよく言われてますよね」 「ここの標識は、青だから優先。この道では「何か」の通行を優先しろってことです」  はあ、ともへえ、ともつかない声を私は上げた。 「なぜ優先なんですか。注意だけでは駄目なんですか」 「下手に避けようとして、事故になることがありますから」  運転手は言った。  
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