幽霊優先道路

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「というか、ここら辺って出るんですか?」  私は前方の道筋を確認しながら尋ねた。 「知らないんですか」  運転手は言った。 「結構ここ通るけど、聞いたことなかったなあ」  私は言った。 「そういうもんなんですか」  カーブを曲がった。  道路の角に花が添えてあるのが目に入った。  私は思わず、うわ、と声を上げた。 「あれですかね。ここで出る幽霊って、事故死なんですか?」  前方から後方に、つい首を動かして見送ってしまった。 「ええ」  運転手は、少々言いにくそうに返事をした。 「気付かなかった。あんなのあったんだ」  交差点に差し掛かった。  信号は黄色。  止まるかと思ったが、運転手はスピードを出して直進した。  さっきの発進の仕方といい、この人、運転雑なのかなと思った。  事故にあったらどうするんだ。  近所のスーパーの前を通った。そろそろ家の近くだと思った。  私は後部座席から身を乗り出した。 「ああ、そこの、細い道から入ってください」  前方を指差す。 「手前のアパート。そこでいいです」  私は、ひとりで暮らしているアパートを指し示した。  タクシーが停車した。  ドアが自動で開く。  私は座った体勢で後部座席を移動しながら、財布を取り出した。  シートを濡らしてしまったのがばれないよう、慎重に動く。 「料金は結構です……」  運転手は言った。 「は?」  私は苦笑した。 「何言ってんですか。そんな訳」  私は財布を探った。  小銭ばかりがぎっしりとあった。  高温で焦げたような、随分と破損した小銭ばかりだった。  祖母の火葬のとき、棺の中に入れた小銭を思い出した。  どこで貰ったお釣りだっけ、こんなのが沢山って。  カーラジオの音声が響いた。先ほどまでエンジン音でよく聞こえなかった。  
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