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「ただの国民、って、何さ」
「……ダニー?」
俯いた彼の声が、少し震えている。
どうしたのだろう、と様子を伺うためにほんの少し伸ばした手が、自分よりも大きな掌に掴まれ、グンッ、と引っ張られる。
「わっ?!」
思わぬ事態に崩れたバランスに、前に転びそうになった私の視界いっぱいに映ったのは、見覚えのある服と、ほんの少しの甘い匂い。
「っ?!」
驚いて声が出なかった私の身体は、あの細い腕でよくそんな力があるな、と思うくらい強めに、彼に抱きしめられる。
「っダニー、痛い…!」
「あ、ごめん」
小さく謝った彼の腕の力は少し緩くなったものの、離してくれる気配はない。
「あの、ダニー」
もぞ、と動き、目の前にあるダニーの肩の上あたりにどうにか顔を動かして彼を呼ぶものの、反応がない。
何がどうなって、こうなった。
軽いパニック状態の回らない頭で考えてみても、全然、答えが見つからない。
どうしたら………!
そう考えている私に、「ねえ」と彼が小さく呼びかける。
「僕に、縁談の話がきたことは、知っているかい?」
ドクン、と心臓が大きくはねる。
「知って、る」
知っているからこそ、想いを、告げたのだ。
「そう……」
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