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さようならのタイミング
彼女がさようならを告げた理由は、
愛しているから、でした。
「今、なんて」
驚いた君の目が、そこから落ちてしまいそうだ。
「大好きです」
「それは、聞こえた。その、そのあと……に」
「だけど、さようなら、って、言ったのよ」
「な、んで」
「もう、貴方に、会えなくなるわ」
もう一度、静かにそう伝えた私の言葉に、君の瞳がじわりと滲んでいく。
涙を流すなんて、格好悪いと、いつだったか聞いた演劇の台詞に、君は「泣くことの何が悪いんだ」と怒っていた。
キラリ、と君の涙に陽の光が反射する。
ああ、なんて綺麗なんだろう。
自分の言葉で好きな人を泣かせているくせに、涙で透き通ってしまいそうな綺麗な水色の瞳から、目が離せない。
彼を泣かせたことが知れ渡ってしまったのならば、私は、夜道で背後から襲われるのかもしれない。
何故なら、今、私は、この国の、皆に愛されている王子に、さようならを告げているのだから。
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