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青田市は、日本でも有数の歓楽街である。昼間はひっそりとしているが、夜になると人通りが増す。そんな街の片隅に建っているビルの一室では、年齢も服装もまちまちな男たちが顔を突き合わせていた。
「まず、状況を整理しよう。バカ娘の由美が入れあげたバカ男は、完全に行方をくらましてる。あちこちのキャバクラやホストクラブに手配書を回してるが、見つかりそうもねえな」
うんざりした表情で言ったのは、井上和義だ。短く整えられた髪型に銀縁の眼鏡、長身痩躯の体にブランドもののスーツを着ている姿は、一見するとやり手の青年実業家といった雰囲気である。
「尾形の叔父貴も、ヤキが回ったな。あんなバカ娘のために、俺たちを使うとは」
言ったのは関根智也だ。パンチパーマに小山のごとき体格が特徴的である。その隣にいる作業着姿の中年男も、顔をしかめながら相槌を打つ。
「本当だよ。こっちは表の会社が忙しいってのに、バカ娘のわがまま聞いてられるかっての」
この中年男は水島雄一、一応は派遣会社の社長である。もっとも、その実はヤクザだが。
そう、この部屋にいるのは全員ヤクザである。日本でも屈指の勢力を誇る任侠団体・銀星会の幹部である尾形が、直系の弟分たちに命令を下した。娘の由美を傷つけた男を捜しだして、ケジメを取らせろ……と 。
だが正直なところ、乗り気な者などいない。
尾形由美の頭と性格の悪さは筋金入りだ。小学生の時には、気に入らない教師がチンピラに絡まれ病院送りになった。やったのは末端の組員だが、命令したのは由美だ。
中学生の時には、同じクラスの女子生徒を組員に命じて凌辱させた挙げ句、その写真を盾に両親を脅した。結果、件の女子生徒は泣き寝入りし、一度も登校することなく卒業した。
高校に入ると、由美の傍若無人ぶりはさらにエスカレートしていく。彼女に逆らえる者など、クラスはおろか学校内に存在しなかった。
そんな由美だが、大学卒業後ひとりの男と出会い恋に落ちる。これまで悪逆非道な行動で周囲を恐れさせていた彼女が、まるで別人のような態度で男に尽くしたのだ。由美は、男の望むものを全て与えていたらしい。
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