桑原の申し出

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 尋ねる井上に、桑原は笑みを浮かべてみせる。 「もちろんです。自分は知り合いも多いですし、独自の情報網もあります。ガキがどこに隠れていようが見つけられます」 「なるほど。そこまで言うなら、一週間以内にガキを見つけて、尾形の叔父貴の前に差し出せるか?」 「任せてください」  即答した桑原に、井上はニヤリと笑った。 「そうか、頼もしいな。だが、ひとつ言っておく。俺たちはサラリーマンじゃねえ。見つけられなかった場合、謝ったって済まされない……それなりの代償を負ってもらう。それは分かるな?」 「はい」 「その代償ってのは、小指一本飛ばすくらいじゃ済まないぞ。それも分かるな?」 「分かっています」  その返事を聞き、井上は桑原の肩をポンと叩いた。 「いいだろう。お前に任せる」  桑原は部屋を出た。だが、関根が後を追って来る。エレベーターの中に強引に入りこんできた。 「おい、待てよ」  言いながら、桑原の襟首を掴む関根。扉が閉まると同時に、関根は拳を振り上げた。  次の瞬間、拳が腹にめり込む。桑原は顔をしかめるが、声ひとつ上げない。  その態度が、関根の怒りに油を注いだ。彼は拳を振り上げ、なおも桑原の腹に叩き込む。 「てめえみたいなケツの青いガキが、調子こいてしゃしゃり出てくんじゃねえ! てめえは、俺が銀星会に入れてやったんだ!」  喚きながら、関根は殴り続ける。筋金入りの武闘派であり、体重も百キロある関根のパンチをこれだけ喰らえば、常人なら内臓が破裂している。  だが桑原は、声ひとつ上げなかった。無言のまま、パンチを受けきる。  やがて、エレベーターが一階に到着した。関根は息を荒げながら、桑原に囁く。 「いいか、もしガキが見つかったら、真っ先に俺の前に連れてこい。これは命令だぞ、分かったな?」 「分かりました」  去って行く桑原の後ろ姿を見ながら、関根は口元を歪める。もし、桑原が青島を見つけて来たら……その時は、自分が手柄をいただく。桑原には、気の毒だが消えてもらおう。  そう、バカとハサミは使いようだ。ただし、あまりにも切れ味のいいハサミは持ち手をも傷つける。そんなものは、組織には必要ない。  前から感じていたが、桑原は頭がキレる。うかうかしていたら、自分を追い落とす存在になるかもしれない。  そうなる前に、奴を潰す。
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