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その頃、尾形由美は恐怖に震えていた。拘束衣のまま病院のベッドに縛りつけられ、身動きひとつ出来ない。目に映るものは白い壁だけ。他には何もない。声を出そうにも、口に器具が装着されている。そのため、口を動かせない。
由美は必死で考えた。ここが精神病院なのは間違いない。ならば、おとなしく過ごして早く退院できるように努めよう。
その時、扉が開き看護師の女が入ってきた。その女を見た瞬間、由美の顔が青ざめていく……。
「尾形さん、食事の時間ですよ」
言いながら、看護師は口を覆う器具を外した。途端に、由美は叫ぶ……しかし、声が出ない。口から出るのは、唾だけだ。
「あなたの声帯は、事故で失われてしまいました。もう二度と、喋ることは出来ません。あと、もうひとつお伝えすることがあります。お父さんの尾形恵一さんは、あなたを一生入院させておくとのことですので」
看護師の言葉に、由美の顔は一瞬にして青ざめていく。
事故になんか、遭ってない!
それに、オヤジがあたしを見捨てるはずない!
由美は必死でもがいた。自分はハメられたのだ。絶対に許さない……必ず復讐してやる。
だが、拘束衣は頑丈だ。由美の力では、外すことなど出来ない。
「無駄ですよ。あなたは、ここで一生暮らすんです。残された人生を、ベッドに繋がれたままね……」
そう言って、看護師はニッコリと笑う。その頬には、長い傷痕があった。
・・・
桑原の前には、血まみれになった男が倒れている。スーツはボロボロで、顔は原型を留めていない。
不意に、その男が顔を上げた。
「桑原……頼む、助けてくれ」
「嫌だね。あんた、俺を消そうとしてたんだろ?」
「ご、誤解だ……助けて……」
言いながら、男は桑原の足にすがりつく。それは関根だった。かつては桑原の兄貴分たったのに、今では桑原の前で泣きながら懇願していた。
もっとも、それも仕方ないだろう。関根は桑原の始末を外国人に依頼し、それが尾形の耳に入り破門されたのだ。
そして今は、山の中に連れ込まれている。裏社会で山といえば、答えは簡単だ。死体として埋められるだけ。
「いい加減にしろ」
言うと同時に、桑原は顔面を蹴り上げる。関根は血と砕けた歯を吐き出しながら倒れた。
「てめえもヤクザなら、ヤクザらしく死ねや」
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