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青と正明が小学3年生になった時だった。
どこかの国と国で大きな戦争がおきた。
色の黒いターバンを巻いたおじさんが、うちの犬が撃たれたんだとテレビの中で涙をぽろぽろと流しながら泣いていた。
「誰がこの世界を守っているの?誰が正義の味方なの?」
かじりつく様にしてそれを見ていた青が、朝食を食べていた叔父さんに向かって尋ねた。
叔父さんはしばらく考え込んでいたが、うまい答えが出なかったのか、腕を組んでうんうん唸り始めてしまった。
「いろいろな正義を持った人間がいるけどなぁ。青が応援したい人が青の正義の味方なのかもしれないよ。青は誰を応援したい?」
青は少し考えてから答えた。
「それは正明だよ」
叔父さんも、同じ食卓についていた叔母さんも正明もそれを聞いて笑った。青もつられて笑っていた。
「そうか。正明だったら叔父さんは誇らしいよ」
叔父さんはそっと近づいて大きな手で青の頭を撫でながら言った。
「だけど叔父さんが青にそんなことを聞かれてもね、誰の名前も出てこないなんて悲しい話だよな。本当は大人が1番にわかってなくちゃいけないことなのに。叔父さんは何も、誰の名前も思いつかないんだよ。ごめんな。本当はこの世界のどこにも、そんな人はいないのかもしれないと、ふとそんな風に思うことがあるんだ。あんな映像を見るとね。だってそれでも俺たちみんなこうして笑ってしまえるほどに、自分の眼の前のこと以外をなかなかちゃんと見ることが出来ていないんだから」
緑の熱い草むらを、黒くて重い戦車がごとごとと一列になって走っているのが見えた。
青は祖父のことを思い出した。
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